企画要旨
高度経済成長期の日本では、早急な社会基盤整備が求められ、場所性を無視した画一的な土木構造物が多数生み出された。しかし、インフラ施設がある程度拡充した現代においては、「量」から「質」への価値転換が行われ、風景への調和や、その場所が持つ意味・役割に合わせた土木デザインを求める機運が高まりつつある。そのため「景観開花。」では、土木デザインに関心のある若者がその力を試せる場所を提供するとともに、多くの人々へ向けて土木デザインの可能性を示すという趣旨のもと、様々な土木構造物を設計テーマに据えて設計競技を実施してきた。
特に、近年の「景観開花。」では、『まち』に意識を向けたテーマ設定を行ってきた。『まち』は私たちの生活の基盤であり、かけがえのない日常生活の舞台である。したがって、人口減少や高齢化、震災からの復興など多くの問題が山積している今、様々な観点から『まち』と向き合い、これからの『まち』のあり方について考える必要があると思われる。
そこで、今年度からはこの考えを発展させ、テーマ設定の方針を一新する。過去の「景観開花。」では、土木構造物のカテゴリーが指定され、その中で『まち』をより良くするための提案が求められてきた。しかし、『まち』の問題が多様化し、新たな『まち』のあり方が模索される現代において、土木デザインは、より自由な発想で『まち』への提案が行えるのではないだろうか。よって今年度の「景観開花。」からは、『まち』についてのある「理想」をテーマとして設定する。応募者には、その「理想」について各自の思いを巡らせ、「理想」の実現に向けた土木デザインを提案して欲しい。
最後に、「景観開花。」を通して東北の地から発信されたアイデアが、これからのより良い生活、そして復興への一助となることを切に願っている。
平成26年7月1日
景観開花。実行委員会
設計テーマ
集う
(詳細は募集要項をご覧ください。)
審査方法
一次審査会を行い、審査委員は入賞作品(5点前後)を決定する。後日、公開最終審査会を開催し、入賞者のプレゼンテーションとそれに対する質疑応答の内容から、審査委員は上位2点と佳作数点を選出する。その後、上位2点の制作者は最終ディスカッションに進出し、相互に質疑応答を行う。この際、質疑には佳作受賞者の参加も可能とする。審査委員は以上を踏まえ、上位2点から最優秀賞と優秀賞を決定し、講評を行う。
審査日程
エントリー受付開始 | 平成26年7月7日(金) |
エントリー締め切り | 平成26年10月10日(金) |
作品提出締め切り | 平成26年10月31日(金) |
一次審査会 | 平成26年11月17日(月) |
公開最終審査会 | 平成26年12月13日(土) |
賞金額
最優秀賞 | 1点 | 20万円 |
優秀賞 | 1点 | 10万円 |
佳作 | 数点 | 4万円 |
特別協賛企業賞 | 数点 | 2万円 |
参加賞 | 全作品 | 審査委員からのコメント |
審査委員紹介
篠原 修
Osamu SHINOHARA
土木設計家
東京大学名誉教授
景観開花。2014 審査委員長
詳細
1945年生まれ。
政策研究大学院大学名誉教授・客員教授
エンジニア・アーキテクト協会 会長
GSデザイン会議 代表
(景観開花。審査委員長:2004年~)
主な受賞歴
2010年 | 土木学会デザイン賞 最優秀賞(新豊橋) |
2009年 | 鉄道建築協会賞停車場建築賞(JR四国・高知駅) |
2008年 | ブルネル賞(JR九州・日向市駅) |
2008年 | 土木学会デザイン賞 最優秀賞(苫田ダム空間のトータルデザイン) |
2004年 | グッドデザイン賞 金賞(長崎水辺の森公園) |
ほか |
主な著書
内藤廣と東大景観研の十五年(鹿島出版会、2013年)ピカソを超える者は―評伝 鈴木忠義と景観工学の誕生(技報堂出版、2008年)
景観用語事典 増補改訂版(彰国社、2007年)
ほか
関連するページ
エンジニア・アーキテクト協会 メンバー紹介政策研究大学院大学 教員・所属研究者情報
五十嵐 太郎
Taro IGARASHI
建築評論家
東北大学大学院教授
詳細
1967年生まれ。
せんだいスクール・オブ・デザイン教員
あいちトリエンナーレ2013 芸術監督
第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 日本館コミッショナー
(景観開花。審査委員:2007年~)
主な受賞歴
2014年 | 文化庁芸術選奨新人賞(あいちトリエンナーレ2013 揺れる大地) |
ほか |
主な著書
レム・コールハースは何を変えたのか(鹿島出版会、2014年)窓と建築の格言学(フィルムアート社、2014年)
おかしな建築の歴史(エクスナレッジ、2013年)
〈建築〉という基体―デミウルゴモルフィスム 磯崎新建築論集 第4巻(岩波出版、2013年)
建築学生のハローワーク 改訂増補版(彰国社、2012年) ほか
関連するページ
五十嵐太郎 研究室木下 斉
Hitoshi KINOSHITA
内閣官房地域活性化伝道師
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事
詳細
1982年生まれ。
熊本城東マネジメント株式会社 代表理事
一般社団法人まちづくり役場とくしま 理事
総務省 地域人材ネットメンバー
経済産業省 タウンプロデューサー
独立行政法人中小企業基盤整備機構 中心市街地活性化協議会 アドバイザー
独立行政法人都市再生機構 まちづくり支援専門家
横浜市立大学 非常勤講師
ほか
(景観開花。審査委員:2014年)
主な受賞歴
2013年 | The Journal of Urban Regeneration and renewal(英国・地域再生ジャーナル): "Challenges in District Management in Japanese City Centers" |
2000年 | 新語流行語大賞(「IT革命」) |
ほか |
主な著書
まちづくり:デッドライン(共著、日経BP、2013年)まちづくりの「経営力」養成講座(学陽書房、2009年)
コミュニティビジネス入門(共著、学芸出版、2009年)
ほか
関連するページ
経営からの地域再生・都市再生一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス
西村 浩
Hiroshi NISHIMURA
建築家・デザイナー
株式会社 ワークヴィジョンズ 代表取締役
詳細
エンジニア・アーキテクト協会 副会長
GSデザイン会議 運営幹事
株式会社リノベリング 取締役
東京藝術大学 非常勤講師
(景観開花。審査委員:2005年, 2008年~)
ほか
主な受賞歴
2013年 | グッドデザイン賞(佐賀「わいわい!!コンテナ」プロジェクト) |
2011年 | ブルネル賞(岩見沢複合駅舎) |
2010年 | 第51回BCS賞(岩見沢複合駅舎) |
2010年 | 日本建築学会賞 作品賞(岩見沢複合駅舎) |
2009年 | グッドデザイン賞 大賞(岩見沢複合駅舎) |
2008年 | 土木学会デザイン賞 優秀賞(鳥羽海辺のプロムナード「カモメの散歩道」) |
2004年 | グッドデザイン賞 金賞(長崎水辺の森公園 常盤出島橋梁群) |
ほか |
主な著書
駅・復権!:JR岩見沢複合駅舎誕生とまち再生への軌跡(共著、岩見沢複合駅舎完成記念誌製作委員会、2010年)ほか
関連するページ
株式会社 ワークヴィジョンズ若林 幹夫
Mikio WAKABAYASHI
社会学者
早稲田大学教育・総合科学学術院 教授
詳細
1962年生まれ。
専門は社会学理論、都市論、メディア論。
(景観開花。審査委員:2014年)
主な著書
都市論を学ぶための12冊(弘文堂、2014年)モール化する都市と社会:巨大商業施設論(共編著、NTT出版、2013年)
熱い都市 冷たい都市 増補版(青弓社、2013年)
社会〈学〉を読む(弘文堂、2012年)
〈時と場〉の変容―「サイバー都市」は存在するか?(NTT出版、2010年)
増補 地図の想像力(河出書房新社、2009年)
社会学入門一歩前(NTT出版。2007年)
郊外の社会学―現代を生きる形(筑摩書房、2007年)
ほか
(敬称略/五十音順)
審査委員コメント
篠原 修 先生(審査委員長)
「安全、安心」という標語は近年の国交省のヒット作だが、考えてみれば当たり前の事を言っているに過ぎない。まちづくりでも同様な月並み標語が溢れていて、曰く「水と緑のまちづくり」「歴史を生かしたまちづくり」などがある。これらは勿論間違っている訳ではないが、よく考えてみれば何も言っていないのに等しい。まちづくりの提案に当たっても、「便利で快適なまち」などというコンセプトを追求したのでは、これは役所の仕事ですかという事になる。もっと若者らしいピリッとした提案が欲しい。「恋を語れるまち」「子供に思い出を語れるまち」「生きていてよかったまち」など、どうですか。
五十嵐 太郎 先生
景観開花のコンペに求めること。
- 日本唯一の土木系アイデアコンペなので、建築のコンペでは出会えないような案を見たいです。
- ドローイングのほかに、模型も提出できる希有なコンペなので、模型だからこそ伝わる要素があると、なお良いです。
- アイデアのコンペなので、あまり実現性やコストにとらわれず、デザインの可能性を示していただければ、と思います。
木下 斉 先生
今後、我々が直面する未来は「人々が公共的に必要とするストックさえ、全てを作ることはできない社会」です。公共財源が大幅に減少する中で、人々の生活に必要なインフラは従来の財政負担構造では建設・維持することが難しい状況にあります。土木分野にも公共資本の効率的投資と回収を実現する公共経営の視点、公共財源を稼ぎだす「稼ぐインフラ」の視点が不可欠です。
本コンペでは人が集まるような工夫のある設計や利用イメージ、模型などの完成度だけでなく、その実現に必要な投資とその回収、さらに利活用で稼ぐ方法といった経営的提案を踏まえた作品を求めます。
西村 浩 先生
今年のお題は、「まち」。学生をはじめとした若者たちの応募が多いコンペなので、とてもいいテーマだと思っています。日本中全国各地で疲弊し続ける「まち」の再生には、とにかく時間がかかります。この舞台での主役は、僕らおじさんたちではなく、まさに君たち、若者のみなさんなのです。若者たち自身が、じぶんごととして「まち」の未来を考え、アイデアを出し、実践に向かういい機会です。前例や既成概念に捉われることなく、僕らおじさんたちがあっと驚くような、若者らしい斬新なアイデアをとても楽しみにしています。
若林 幹夫 先生
社会学者である私にとって“まち”は、通常は“評価”の対象ではなく“読解”の対象です。この場合、読解されるのは“まち”を構成している建物その他の物的装置だけではありません。“まち”は物的装置を不可欠な構成要素としていますが、そこで人びとが生き、活動し、関係し合い、また様々なことを思ったり、感じたりすることによって始めて“生きたまち”になります。“生きたまち”は“もの”ではなく、むしろ“できごと”なのです。魅力的な“できごととしてのまち”に、景観開花で出会えることを楽しみにしています。
(五十音順)